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広島高等裁判所 昭和62年(行コ)4号 判決

当事者及び訴訟代理人の表示は別紙一当事者目録記載のとおり。

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らの請求を棄却する。

三  控訴費用は、第一、二審を通じ、参加によって生じた費用を含めて被控訴人らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人及び控訴人補助参加人両名

1  主文第一、二項同旨

2  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら(但し、被控訴人大海満、久保富夫を除く。)

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人及び控訴人補助参加人両名の負担とする。

第二当事者の主張

次に付加、訂正する外は、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(原判決の付加、訂正)

原判決一枚目裏九行目の「別紙(一)当事者目録番号1ないし7」(本誌本号〈以下同じ〉24頁4段8行目)を「本判決添付別紙一当事者目録中の被控訴人らのうち番号1ないし7」と、同末行から同二枚目表一行目にかけての「同目録番号8ないし52の四五名」(24頁4段11行目)を「同番号8ないし36及び39、40の三一名」と、同四行目の「右原告ら五二名」(24頁4段16行目)を「右被控訴人ら三八名」と、それぞれ改める。

同二枚目裏三行目の「被申立人として」(25頁1段1行目)の次に「一時金の差別支給、組合費等の不当な二重控除などが行われたとして」を、同六行目の「右申立て」(25頁1段6行目)の次に「の一部」を、それぞれ加える。

同二枚目裏九行目の「係属中」(25頁1段11行目)の次に「の昭和五八年一一月七日」を加える。

同三枚目表一行目から同二行目にかけての「各一時金」(25頁1段17行目)を、「各夏期及び冬期一時金(以下「本件一時金」ともいう。)」と改める。

同三枚目裏八行目の「労使懇談会」(25頁2段12行目)を「広島地区ハイタク労使懇談会(以下「地区労使懇談会」という。)」と改める。

同四枚目裏五行目の「協議」する」(25頁3段8行目)を「協議する」」と改める。

同四枚目裏九行目の「収入」(25頁3段14行目)を「月額賃金」と改める。

同五枚目裏九行目の「原告」(25頁4段12行目)を「被控訴人ら」と改め、同行の「一時金」(25頁4段13行目)の前に「本件」を加える。

同六枚目表七行目の「スライド制」(25頁4段25~26行目)の次に「の導入」を加える。

同六枚目裏二行目の「不当労働行為」(26頁1段3行目)の前に「組合事務所や掲示板の設置、時差勤務、無線車乗務等についての」を加える。

同七枚目表四行目の「現在に至るまで」(26頁1段23行目)を「昭和六一年五月まで」と改め、同一〇行目の「組合費等」(26頁1段31行目)の前に「チェック・オフ協定に基づく」を加える。

同一〇枚目表五行目から六行目にかけての「現在に至るまで」(26頁4段28行目)を「昭和六一年五月まで」と改める。

同一〇枚目裏末行の「あるから」(27頁1段20行目)を「ある。したがって、」と改める。

同一一枚目裏一行目の「燃料」(27頁2段6行目)を「燃料費」と、同四行目の「福利制度」(27頁2段11行目)を「福利厚生制度」と、それぞれ改める。

同一二枚目表三行目から四行目にかけての「スライド制」(27頁2段28行目)の次に「導入」を、同五行目の「これは」(27頁2段31行目)の次に「各乗務員の」を、同一〇行目の「そこで、」(27頁3段8行目)の次に「スライド制の導入により、」を、それぞれ加え、同裏三行目の「充てようとする」(27頁3段12行目)を「充てようとした」と改める。

同一二枚目裏四行目の「春闘における」(27頁3段14行目)の次に「広島市及びその周辺の」を、同六行目の「求めることとし、」(27頁3段17~18行目)の次に「控訴人補助参加人両名は、全自交広タク支部及び被控訴人組合に対し、」を、同七行目の「あるものの」(27頁3段19行目)の次に「、」をそれぞれ加える。

同一四枚目表二行目の「申入れにより」(27頁4段29行目)の次に「、昭和五五年夏期一時金と同様に、」を、同七行目の「に対し、」(28頁1段5行目)の次に「本件一時金につき、」を、それぞれ加える。

同一四枚目裏二行目の「主張して」(28頁1段15行目)の次に「、それぞれチェック・オフ協定に基づき」を、同九行目の「双方に対し」(28頁1段24行目)の次に「右組合員の移籍問題について」を、それぞれ加える。

(控訴人の当審における補充主張)

一  一時金支給について

控訴人補助参加人広島タクシー及び同ときわタクシー(以下「補助参加人両名」という。)が導入しようとしたスライド制は、広島タクシー乗務員の月額取得賃金に偏った労働条件を改善し、一時金、退職金、福利厚生等の向上を目的とするものであり、被控訴人組合においても、右スライド制の趣旨や内容を十分に承知していたものであるから、このような場合にまで、その趣旨、内容の説明が要求されるものではない。

二  組合費等の二重控除について

補助参加人ときわタクシーが、訴外小関ら三名から、全自交広タク支部を脱退して被控訴人組合に加入した旨の申入書を受理したにもかかわらず、敢えて組合費等の二重控除を継続したのは、併存する労働組合間への支配介入になることを避けるためにとった止むを得ない措置であった。

(補助参加人両名の当審における補充主張)

一  一時金支給について

1 本件一時金上積み支給の前提条件となったスライド制の導入に関する協議条項は、地区労使懇談会経営委員会等の方針に基づき、全自交広タク支部と被控訴人組合の双方に等しく提示したもので、ことさらに併存する右両組合を差別し、被控訴人組合の組織を動揺ないし弱体化する意図に基づいたものではない。

すなわち、補助参加人両名が全自交広タク支部と被控訴人組合の双方に対しスライド制の導入についての協議をなすことを前提条件として本件一時金の上積み支給を提示した経緯は、次のとおりである。

運賃改定時に歩合給における足切り額を上げ(スライドさせ)、これによって会社に留保された原資により従業員への一時金、退職金、福利厚生等の向上を図ろうとするスライド制は、昭和三九年ころから東京などのタクシー業界で実施されていた制度であるが、広島地区におけるタクシー業界にあっては、従来から、主として、歩合給における足切り額を上げて固定給部門の比率を高めるという方法(枠内操作)により、歩合給中心の賃金体系から安定した賃金体系への移行が図られてきたに止まっていた。

補助参加人両名と全自交広タク支部が加入している地区労使懇談会においては、昭和五四年三月一五日開催された会の席上、経営側委員から偶々スライド制についての話題が出された際も、労使ともに時期尚早との意見が大勢を占め、その後の地区労使懇談会においてもスライド制が議論されることはなかった。

ところが、昭和五五年の春闘に当たり、組合側から一時金の増額についての強い要求がなされるに至り、地区労使懇談会経営側委員会及び広島県タクシー協会広島支部では、前年一〇月の運賃改定による増収分が乗務員の歩合給と高騰した燃料費に充てられ、一時金増額の原資が全くないという大変困難な状況にあったけれども、将来スライド制を導入した場合の原資の確保を期待して、先行投資として一時金の上積み支給をすべきではないかとの意見が出され、協議の結果、次期運賃改定の際に地域の情勢に応じてスライド制を導入すべく協議することを前提条件に、先行投資として一時金の上積み支給をすることで意思確認がなされた。

そして、昭和五五年四月四日開催の地区労使懇談会において、経営側から右意思確認に従って、労働側に対し同年の春闘において右スライド制導入を打ち出す旨の申入れをなしたもので、それより以前において、補助参加人両名と全自交広タク支部との間で、地区労使懇談会等においてスライド制導入について具体的実質的討議がなされたり、まして、右制度導入の合意がなされたことはない。

一方、被控訴人組合においては、昭和五四年一二月七日開催の定期大会において、「東京大手企業で導入されているスライド制が早晩広島にも波及することが予想されるのでスライド制について本格的に討議する必要がある」旨決定するとともに、昭和五五年四月一二日発行の組合新聞ではスライド制について詳細に言及しており、そのころまでに、スライド制の趣旨、内容を十分に理解していたものであって、必ずしも右制度に反対ということではなかった。

右の状況下において補助参加人両名は、全自交広タク支部に対しては昭和五五年四月一四日に、被控訴人組合に対しては同年四月一六日に、それぞれ等しく、同年の夏期及び冬期一時金の上積み支給(満勤務者一人平均年間三万八〇〇〇円)の前提条件として、「次の運賃改定の際には、地域の情勢に合わせて、スライド制を導入すべく協議する」ことを提示したものである。

2 本件における被控訴人組合所属の従業員と全自交広タク支部所属の従業員との一時金支給額の差は、補助参加人両名と被控訴人組合との間の団体交渉における自由な意思決定に基づいて生じた結果であって、何ら不当労働行為となるものではない。

すなわち、前記1のとおり、補助参加人両名は、全自交広タク支部に対しては昭和五五年四月一四日に、被控訴人組合に対しては同年四月一六日に、いずれも等しく、同年夏期及び冬期の一時金上積み支給の前提条件として「次の運賃改定の際には、地域の情勢に合わせて、スライド制を導入すべく協議すること」を提示したところ、全自交広タク支部は、右前提条件を受け入れたのに対し、被控訴人組合は、直ちにはこれを受け入れず、同年六月一八日、補助参加人両名に対し、「スライド制は重要な問題であるので継続審議としたうえで、一時金は前年並みの額を暫定支給をして欲しい」旨申し入れてきた。

そして、補助参加人両名も、被控訴人組合からの右申入れを検討したうえ、同年六月二七日、被控訴人組合との間で、スライド制の導入について継続審議すること及び前年同額の一時金を暫定支給することを合意し、右合意の結果、全自交広タク支部の組合員と被控訴人組合の組合員との間で右一時金の支給額に差が生じたものである。

なお、補助参加人両名は、右合意の後、被控訴人組合との間で数度にわたりスライド制に関する資料等を示して勉強会を行ったが、同組合の右制度についての理解は得られず、前記一時金上積み支給の前提条件についての合意が得られなかった。

さらに、昭和五六年における一時金の支給については、同年四月ころ、次期運賃改定の時期、改定率等の見通しがついたことから、補助参加人両名は、同年五月一二日の団体交渉において、スライド制を導入した新しい賃金体系を具体的数字を示したうえ、全自交広タク支部と被控訴人組合の双方に提示したところ、全自交広タク支部はこれを受諾し、被控訴人組合はスライド制導入を前提とした具体的協議に入ることなく、同年六月三〇日、これを拒絶する回答をするに至った。

その結果、昭和五六年三月二一日以降は、全自交広タク支部所属の従業員と被控訴人組合所属の従業員とでは、賃金体系が全く異なることになったものであり、同年の夏期及び冬期一時金の支給額について、右両組合間に差が生じたのは、各組合の独自の判断によるもので、至極当然のことである。

ところで、被控訴人らは、補助参加人両名からは本件一時金上積み支給の前提条件となったスライド制導入についての説明がなく、抽象的表現に過ぎない右前提条件の諾否を強硬に迫られた旨主張するが、スライド制は、昭和三九年ころから東京その他の地区において既に実施されていた制度であり、被控訴人組合もタクシー労働者の組合として、当然右制度の趣旨、内容を知っていたものである。

また、昭和五五年の春闘時点では、次期運賃改定の見通しが立っておらず、スライド制を導入した場合の足切り額や会社側に留保される原資額とその使途等について具体的な説明をすることは不可能であったものであり、それらの点について具体的に協議をすることが一時金上積みの前提条件であったのである。

さらに、昭和五六年の一時金上積み支給については、同年の春闘前に次期運賃改定の見通しがついたことにより、補助参加人両名は、スライド制導入を前提とした具体的数字を盛り込んだ新賃金体系を両組合に提示しており、全自交広タク支部はこれを受諾したのに対し、被控訴人組合はこれを拒否したものである。

二  組合費等の二重控除について

補助参加人ときわタクシーが訴外小関、被控訴人原及び被控訴人幸田について組合費等を二重に控除したのは、被控訴人組合と全自交広タク支部の両組合のいずれもが、右三名をそれぞれ自己の組合の組合員であると主張して組合費等の控除申請をして来たため、労働組合に対する支配介入になることを避ける必要から止むなくとった措置であり、被控訴人組合の組織の動揺ないし弱体化を意図したものでないことは勿論、被控訴人組合への加入を理由として右三名を不利益に扱ったものでもない。

すなわち、昭和五三年七月以降、全自交広タク支部と被控訴人組合との間では、組合員の脱退については、脱退組合員本人の意思確認と脱退する組合が保証人となっている労働金庫からの借入金の完済を条件とする旨の了解がなされ、右了解事項が遵守されてきた。

ところが、右三名のうち、訴外小関については、全自交広タク支部の委員長らにおいて本人の意思を確認したところ「しばらく考慮したい。」旨回答してきたため組合脱退意思の確認ができず、また、被控訴人原及び被控訴人幸田については、全自交広タク支部が保証人になっている労働金庫からの借入金が完済されていないから組合脱退を認めるわけにはいかない、というのが全自交広タク支部の言い分であった。

右の状況下において、補助参加人ときわタクシーは、右三名の組合帰属を決定することは、労働組合に対する不当介入になると判断し、止むなく両組合からの申請に従って組合費等の控除をなすとともに、両組合に対しては、右三名の脱退問題につき早期解決を促していたものである。

ところで、訴外小関については、昭和五七年一〇月二四日、「全自交広タク支部の森田副委員長と従来より脱退に関して話し合いをしてきたが、やっと脱退の決意ができた。」旨明確な意思表示をしたため、全自交広タク支部は、以後、組合費等の控除申請をしなくなり、また、被控訴人原については、昭和五八年一月一一日、被控訴人幸田については、昭和六一年五月三〇日、それぞれ、労働金庫からの借入金を完済したため、全自交広タク支部も両名の脱退を認め、以後、組合費等の控除申請をしなくなったものである。

なお、全自交広タク支部と被控訴人組合との間では、昭和五七年八月から昭和六二年三月までの組合員の脱退についても、前同様、脱退組合員本人の意思確認と労働金庫からの借入金の完済を条件とする処理がなされており、さらに、昭和六二年二月七日にも、右取り扱いを了解し、確認する旨の明確な合意がなされている。

三  背景事情について

1 組合事務所、掲示板設置について

補助参加人両名は、被控訴人組合及び全自交広タク支部の双方に対し、その規模、組合員数等に応じた組合事務所、掲示板を便宜供与しており、被控訴人組合を特に不利益に扱っているものではない。

すなわち、昭和五七年七月当時、被控訴人組合の組合員数は、補助参加人広島タクシーに一〇名、補助参加人ときわタクシーに四六名であり、一方、全自交広タク支部の組合員数は、補助参加人広島タクシーに六八五名、補助参加人ときわタクシーに九六名であった。

補助参加人両名の側では、全自交広タク支部に対しては、右組合員数から明らかなように、その本拠地が補助参加人広島タクシー内にあることから、同社屋にのみ組合事務所を便宜供与し、補助参加人ときわタクシーの社屋内には組合事務所を与えず、掲示板の使用のみを認めていた。

これに対し、被控訴人組合は、その本拠地が補助参加人ときわタクシー内にあるが、同社屋内には十分なスペースもなかったことから、同組合に対しては、休憩室の一角(約五平方メートル)に机等を置いて組合事務所として使用させるとともに、諸会議のためには会社の会議室等を別途使用させている。(なお、右休憩室の一角を使用させるに当たり、間仕切り等を設置する旨申し入れたが、被控訴人組合側で、これを望まなかったものである。)

なお、被控訴人組合に対し、補助参加人広島タクシー内には組合事務所を供与していないが、同会社内の組合員数が僅か一〇名に過ぎないためであり、また、掲示板については、被控訴人組合への使用を認めると会社側が使用するスペースがなくなることもあって、被控訴人組合から組合員に対する連絡等は会社側が手伝うことを約し、これを履行している。

2 無線車への乗務について

補助参加人両名においては、かって無線営業を実施したところ、労働者の長期ストライキにより顧客に対し著しい迷惑を掛け、右営業を廃止せざるを得なくなったことがあった。

そこで、昭和五五年に再度の無線車導入に当たっては、労働組合の協力が不可欠と考え、無線車乗務の前提条件として、いわゆる争議協定の締結をなすことを、全自交広タク支部及び被控訴人組合の双方に提示したところ、全自交広タク支部はこれを受け入れ、被控訴人組合はこれを受け入れなかったものである。

その結果、被控訴人組合の組合員については、無線車への乗務ができないことになったが、これは、被控訴人組合の自由な意思決定によるもので、補助参加人両名が同組合の組合員を特に不利益に扱ったものではない。

なお、昭和六三年からは、被控訴人組合も争議協定を締結するに至ったため、同組合の組合員に対しても無線車への乗務を認めている。

3 時差勤務について

時差勤務とは、午前一一時から翌日午前五時二〇分までの時間勤務をいうが、新幹線開通後のダイヤ変更等により国鉄広島駅の終夜タクシーの需要が極端に減少したため、時差勤務体制の必要性もなくなった。

そこで、補助参加人両名は、昭和五五年一一月、時差勤務を一定の遠距離勤務者に限定して近距離勤務者は通常勤務に変更する旨、両組合に申し入れたところ、全自交広タク支部はこれを受け入れ、被控訴人組合はこれを受け入れなかったものであり、止むなく、被控訴人組合の組合員に対しては、当時時差勤務に従事していた者に限り、近距離勤務者についても時差勤務を認めるという優遇措置をとったもので、何ら不利益な扱いはしていない。

4 組合加入について

補助参加人両名が、本採用となった従業員について、特段の意思表示のない場合には慣行として全自交広タク支部の組合員として取り扱ってきたことは、次のような経緯によるもので、被控訴人組合を殊更に嫌悪したものではない。

すなわち、補助参加人広島タクシーにおいては昭和三二年六月に広島タクシー従業員組合が結成されたが、昭和三五年に全自交(全国自動車交通労働組合連合会)に加盟し、補助参加人ときわタクシーにおいても昭和三六年に従業員全員が全自交に加盟して、補助参加人両名の労働組合は当初全自交広タク支部単一であったこともあって、手続の便宜上、従業員が本採用となった場合には特段の意思表示のない限り同組合の組合員として取り扱うようになっていた。

この取扱は、昭和五〇年に全自交広タク支部の一部の者が独立して訴外広島タクシー労働組合を結成した後も続けられ、同組合も右取扱を是認していたものであり、昭和五二年に被控訴人組合が結成された後も、過去の右取扱に従って事務処理をしていたに過ぎないものである。

(被控訴人らの当審における補充主張)

一  一時金支給について

1 本件一時金上積み支給の前提条件となったスライド制の導入は、従業員にとって、月額一万三〇〇〇円、年額一五万六〇〇〇円の収入減をもたらし、その結果、年次有給休暇や交通事故、労働災害の際の一日当たりの休業補償額等を下げ、また厚生年金の受給額も引き下げるものであり、加えて、会社側に保留されるスライド部分(原資)の具体的配分や会社側の主張する生涯賃金構想との関連も不明確であって、必ずしも労働条件の改善や福利向上を目的とするものとはいえない。

まして、本件一時金の上積み支給は、スライド制が導入される以前において、労働条件に何の差異もなかったのに、全自交広タク支部の組合員にのみ支給し、被控訴人組合の組合員には支給がなされなかったもので、合理的理由の全くない、差別支給であることは明らかである。

この点について、補助参加人両名は、本件一時金の上積み支給は、スライド制を導入するための先行投資である旨主張するが、先行投資なるものがいかなるものかは明確でなく、過去の勤務状態を対象に支給されるべき一時金について、将来のスライド制導入を前提条件にして支給額に差をつける合理的根拠は全くない。

2 補助参加人両名が本件一時金上積み支給の前提条件となったスライド制の導入について全自交広タク支部と被控訴人組合の両組合に提案した経緯は、次のとおり明らかに差別的なものであり、右制度の導入を前提条件とした一時金の上積み支給が、被控訴人組合に対する組織の弱体化をねらったものであることは明らかである。

すなわち、補助参加人両名と全自交広タク支部との間では、昭和五五年の春闘以前から、スライド制の導入について協議、検討を進めてきており、地区労使懇談会において、昭和五二年二月にはスライド制についての意見交換を行い、同年三月及び昭和五四年三月には右制度を導入している東京方面のタクシー会社へ合同視察団を派遣するなどして、労使間で右制度の導入につき意見の一致をみていた。

そして、全自交広タク支部の上部団体である全自交本部は、昭和五四年一一月の全国大会でスライド制導入を認めることを正式決定し、昭和五五年二月に全自交中央委員会でも、同年春闘の統一要求としてスライド制、年度別賃金の実施を掲げることを決めている。

このような経過の中で、全自交広タク支部は、昭和五五年三月一一日、広タク系二労合同会議でスライド制導入の春闘要求を確認し、同年三月、四月に開催された地区労使懇談会では、重ねてスライド制導入の方針を会社側と確認し合っていたものであり、それ故に、同年四月一四日に補助参加人両名から右制度導入を前提条件とする一時金の上積み支給の提示を受けたのに対し、即日、これに応じたものである。

一方、補助参加人両名は、被控訴人組合に対しては昭和五五年四月一六日にスライド制導入を前提条件とする一時金の上積み支給の提示をするまで、右制度導入についての話は一度もしておらず、むしろ、同年三月二五日の団体交渉の際には右制度導入は当分考えない旨回答していたもので、いわば騙し討ちの形で右提示を行ったものである。

そして、補助参加人両名が被控訴人組合に対しスライド制の導入につき何らの協議をしなかったのは、被控訴人組合が昭和五二年一二月の組合結成以来スライド制は賃下げになるとして、右制度の導入を目指す全自交広タク支部の対応に反対してきたことを補助参加人両名は十分認識し、被控訴人組合が即座には右制度の導入を受け入れないことが見えていたからに他ならない。

そうすると、補助参加人両名の本件一時金上積み支給の提示は、全自交広タク支部とはスライド制導入について事前に合意をして、同組合の受諾を予測した提示であり、一方、被控訴人組合に対しては、事前に何らの協議をせず、右制度導入に応じないことを予測したうえでの提示であって、被控訴人組合の弱体化を意図したものであることが明らかである。

3 補助参加人両名は、本件一時金の差別支給につき、被控訴人組合の自由な意思決定の結果によるものである旨主張するが、補助参加人両名は被控訴人組合に対し、前提条件となったスライド制について何らの説明や協議をせず、しかも、抽象的な表現である「スライド制を導入すべく協議をする」という条項、すなわち、右制度の導入を飲むか飲まないか二者択一の対応を性急に求め、これを飲まない以上は本件一時金の上積み支給をしないばかりか、一時金の支給を一切しないとの強硬な態度に固執したため、被控訴人組合としては、止むなく前年並みの一時金支給を暫定的に受諾せざるを得なかったものである。

二  組合費等の二重控除について

補助参加人ときわタクシーは、訴外小関ら三名に対する組合費等の二重控除について、同人らが全自交広タク支部と被控訴人組合のいずれの組合に属するか判断できなかったとか、労働組合への不当な介入になることをおそれた旨主張するが、仮にそうであるならば、同人らの組合費等を供託するとか、同人らと右両組合間の協議に委ねる方法もあり、収入の少ない同人らの給与から、自己の所属しない労働組合の組合費まで強行的に二重控除することは、労働者の自由な組合脱退と組合加入の権利を奪い、被控訴人組合への加入を困難にするものであり、被控訴人組合の弱体化を図ったことは厳然たる事実である。

また、補助参加人ときわタクシーは、昭和五七年と昭和六二年に全自交広タク支部と被控訴人組合との間で、労働金庫からの借入金処理を組合脱退の条件とする確認がなされたことをもって、右二重控除の行為を正当化しようとするが、全自交広タク支部が組合脱退の自由を認めず、補助参加人ときわタクシーが組合費等の二重控除を強行する中で、被控訴人組合としては、止むなく右確認をしたものであって、補助参加人ときわタクシーの被控訴人組合に対する敵視政策を免罪することは到底できない。

三  背景事情について

補助参加人両名は、被控訴人組合に対しては、従来、労使一体の関係にある全自交広タク支部とは異なり、様々な差別と不利益的扱いをしてきたものであり、本件一時金の差別支給及び組合費等の二重控除も、これらの行為と軌を一にするもので、被控訴人組合に対する組織の弱体化を狙ったものであることは明らかである。

すなわち、補助参加人両名は、補助参加人広島タクシーの社屋内には被控訴人組合の組合事務所を設置させず、補助参加人ときわタクシーの社屋内の誰もが出入りできる休憩室の一部を組合事務所として使用させているだけで、掲示板の使用も認めず、全自交広タク支部とは差別的に取り扱っている。また、補助参加人両名は、全自交広タク支部を脱退して被控訴人組合に加入した従業員らに対し、時差勤務や無線車乗務を認めないという不利益扱いをし、本件スライド制導入の提案があった時期にも、被控訴人組合所属の組合員を解雇するなど、枚挙にいとまがない組合間差別を行い、被控訴人組合及び同組合所属の組合員に対する不当労働行為を重ねていたものであり、本件一時金の差別支給及び組合費等の二重控除も、これら不当労働行為の一環として行われたものである。

第三証拠

原審及び当審記録中の各書証及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する(略)。

理由

一  請求原因1、2の事実(当事者及び本件命令の発付)は、被控訴人ら及び補助参加人両名への本件命令の交付日を除き当事者間に争いがない(但し、本件命令が被控訴人ら及び補助参加人両名に交付されたことは当事者間に争いがない。)。

二  本件一時金支給について

そこで、被控訴人らの主張する本件命令の違法事由のうち、まず、一時金支給の点について検討する。

補助参加人両名が、昭和五五年度及び昭和五六年度の各夏期及び冬期の一時金について、被控訴人組合に属する被控訴人ら従業員に対し、全自交広タク支部に属する従業員よりも年間一人平均三万八〇〇〇円低くして支給したこと、被控訴人組合に所属する被控訴人ら従業員と全自交広タク支部に所属する従業員との間において、右各一時金のうち昭和五五年夏期及び冬期並びに昭和五六年夏期一時金の支給対象期間中の賃金体系等の労働条件に差異がなかったことは、いずれも当事者間に争いがなく、右事実に加えて、(証拠・人証略)の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  補助参加人両名は、いずれも、広島市内に本社を置く、同市内では大手に属するタクシー会社であるが、右両名は、代表取締役が同一人であり、各従業員に対する賃金、一時金等の労働条件に関する団体交渉も一体として行っていた。

補助参加人両名の従業員が結成する労働組合としては、もともと全自交広タク支部だけが存在していたが、昭和五二年一二月、右組合を一斉脱退した四三名の者により被控訴人組合が結成され、その後は右両組合が併存することになった(組合員数は、本件不当労働行為救済の申立てがなされた昭和五七年当時において、全自交広タク支部が約八〇〇名、被控訴人組合が約六〇名となっていた。)。

2  ところが、タクシー乗務員の賃金は、基準内賃金と基準外賃金に分かれ、前者は基本給、乗務手当、歩合給により構成され、後者は深夜手当、時間外手当により構成されるが、従前からの賃金体系では、月収中の歩合給(月額総運収額から一定の金額(足切り額)を控除した残額に一定率を乗じて算出される。)の占める割合が大きく、このため、乗務員にとっては、運収さえ揚げれば、どのタクシー会社でもさほど変わらない月収が得られるということから一定の職場への定着性が低く、他の一般会社と比較して一時金や退職金、あるいは福利厚生面が劣るという状況にあった。

そこで、タクシー業界においては、乗務員の職場への定着や顧客へのサービスの向上を図るため、従来からの歩合給中心の、いわば日雇い的賃金体系からの脱皮を目指し、歩合給における足切り額を上げて固定給部門の比率を高める操作(枠内操作)をしたり、さらには、運賃改定時に運賃値上げに伴う運収の増加に合わせて歩合給の足切り額を上げ(スライドさせ)、これによって会社に留保させた原資を従業員への一時金、退職金、福利厚生に充てるスライド制の実施が提唱されるようになった。

3  右の趣旨から、スライド制は、昭和三九年ころから東京の大手タクシー業界の一部において実施されるようになったが、一方で、タクシー乗務員にとっては、運賃改定率がそのまま月収の向上率に連動した従来のノースライド型賃金体系と比較して、月別賃金及び月別賃金を基礎に算定される労災補償金等の各種給付金の引下げになるとの理解があり、また、スライド制導入によって会社側に留保される原資の具体的配分が必ずしも明確でないという一面があることから、反対する向きも強く、すぐには全国的に実施が広げられるという状況ではなかった。

4  広島地区のタクシー業界においては、昭和五二年ころから、地区労使懇談会が開催され、補助参加人両名を含む主だったタクシー会社の労使の代表者が出席して、正規の団体交渉とは別に各種の情報交換や話し合いの場が持たれていた(但し、右会合に、全自交広タク支部は出席していたが、被控訴人組合は構成員となっていなかった。)が、昭和五四年三月上旬にはスライド制が導入された東京の大手タクシー会社への共同視察が行われ、同月中旬には右共同視察のまとめとして、スライド制の導入を目指すことについて意見の一致をみるに至っていた。

また、地区懇談会とは別に、補助参加人両名の内部には広タク系列労使懇談会が持たれていた(これにも、全自交広タク支部は出席していたが、被控訴人組合は構成員となっていなかった。)が、昭和五五年三月二八日には、次期運賃改定時に地域の労使の合意があることを前提にスライド制を導入することが確認され、同年四月七日の会合では、同月一四日に生涯賃金構想を盛り込んだ回答を会社側がすることが確認された。(証拠略)

5  ところで、全自交広タク支部の上部団体である全自交本部は、昭和五四年一一月に広島市で開催された全国大会において、スライド制の導入を前提とした年度別賃金の要求を掲げ、また、全自交広タク支部の属する全自交広島地方本部は、昭和五五年一月二五日に開催された第一五回定期大会において、従来のノースライド型賃金体系は時代遅れであり、生涯職業としての労働条件確立のため年度別賃金の導入について真剣に検討しなければならない段階に入っているとの運動方針を明確にしたうえ、同年三月一一日には、年度別賃金を基本とする賃上げ要求の統一要求書を作成し(全自交広タク支部は、右統一要求書をそのまま補助参加人両名へ提出している。)、さらに、同年三月五日付で東京の大手タクシー労組の作成したスライド制についての解説資料を傘下の労働組合に配付した。

6  一方、被控訴人組合の上部団体である自交総連(昭和五四年結成)は、スライド制は月別賃金を下げ、会社に留保される原資が一時金等に確実に廻される保障はないとの立場から、右制度導入に反対の態度を明確にして、その方針のもとに情宣活動を行ってきており、被控訴人組合もスライド制導入については消極的態度をとってきていたが、必ずしも絶対反対の立場ではなく、昭和五四年一二月七日開催の第三回定期大会では、スライド制が早晩広島にも波及することが予想されるとして、右制度の良し悪しについて本格的に討議する必要が生じてきた旨の報告がなされていた。(証拠略)

7  昭和五五年三月下旬ころ、補助参加人両名の所属する広島地区ハイタク労使懇談会経営者委員会及び広島県タクシー協会広島支部において、同年度の春闘対策として、従来の日雇い的な歩合給中心の賃金体系から、一時金、退職金、福利厚生の充実を図る安定した労働条件を目指す賃金体系への移行を図るため、スライド制を導入する方針が出され、労働組合側からの一時金の上積み要求に対し、次期運賃改定時にスライド制を導入すべく協議することを前提条件に、右制度導入により会社側に確保される原資のいわば先行投資として一時金の上積みに応じることが確認された。

8  右の経過を踏まえて、補助参加人両名は、昭和五五年の春闘に臨み、全自交広タク支部とは同年四月一四日の団体交渉において、一時金の支給について、「次期運賃改定の際に地域の情勢に合わせてスライド制を導入すべく協議すること」を前提条件として、前年度の一時金支給額に年間満勤務者一人平均三万八〇〇〇円を上積みした夏期二四万八〇〇〇円、冬期二八万五〇〇〇円を支給する旨回答したところ、全自交広タク支部は、即日、右回答を受入れ、同内容の労働協約が成立したことによって、同年七月一〇日、補助参加人両名から全自交広タク支部に所属する従業員に対し、右金額の夏期一時金が支給された。

9  一方、被控訴人組合に対しては同年四月一六日の団体交渉において、補助参加人両名から、同年度の一時金支給について、全自交広タク支部に対する前記回答と全く同一の回答がなされたが、被控訴人組合は、前記のとおりスライド制導入には消極的態度をとってきており、補助参加人両名から提示された「スライド制を導入すべく協議する」という前提条件を、確定的に右制度の導入に応じるものと理解して、右回答を拒否したため、同組合との間では労働協定の締結には至らなかった。

10  補助参加人両名が右両組合に対し、「次期運賃改定時に地域の情勢に合わせてスライド制を導入すべく協議すること」を一時金上積みの前提条件とした趣旨は、右団体交渉の時点では、次期運賃改定時期や改定率についての具体的見通しが立っていなかったため、足切り額など具体的なスライド制実施の提案はできないものの、まずは、労使間において、次期運賃改定時に右制度を導入する方向で前向きの協議をしていくことで合意を図ろうとするもので、スライド制を導入した新賃金体系への移行を目指す長期的見通しに立って、右制度導入によって得られる原資確保のためのいわば先行投資として一時金上積みに応じようとしたものであった。

したがって、補助参加人両名が右一時金上積みの前提条件として提示したスライド制の導入は、必ずしも確定的なものではなく、地域における実施の状況に合わせるとの含みを持っており、次期運賃改定時に改定率が明らかになった段階で実際にスライド制の実施に踏み切るときには、歩合給の足切り額の具体的額や会社側に留保される原資の具体的配分について労働組合側と改めて協議を行う方針であり、このことは、被控訴人組合にも前記団体交渉を通じて補助参加人両名から説明がなされていた。

11  その後、被控訴人組合に所属する従業員の解雇問題が発生するなどして、同組合と補助参加人両名との間の一時金の上積み支給についての協議は棚上げの形になっていたが、同年六月一八日、補助参加人両名から被控訴人組合に対し、同年七月一〇日支給予定の夏期一時金の計算作業に入る必要があるからとして団体交渉が申し入れられ、再度、右一時金上積み支給について協議がなされた。

右団体交渉において、被控訴人組合は、一時金の上積み支給とスライド制の導入を分離することを主張し、結局、補助参加人両名と被控訴人組合との間において、右制度導入問題については継続協議をしていくこととし、とりあえず同組合に所属する従業員に対しては昨年並みの一時金を暫定的に支給することで合意が成立し、同年七月一〇日、右金額の一時金が被控訴人組合所属の従業員に支給された。

12  被控訴人組合に対する右一時金の支給が暫定支給とされたのは、その後の補助参加人両名との協議によってスライド制導入問題について合意が成立すれば、全自交広タク支部と同様に上積み支給がなされるという趣旨であり、このことは被控訴人組合も理解したうえ、同年七月発行の組合ニュースでその旨所属組合員に対し明確に伝えている。(証拠略)

なお、被控訴人組合は、スライド制については自交総連の情宣活動や併存組合である全自交広タク支部の配付資料等を通じて、そのメリット、デメリットを含めた制度的趣旨を十分理解しており、右一連の団体交渉の過程でも、補助参加人両名に対し右制度の趣旨や内容の説明を求めておらず、前記六月一八日の団体交渉の席上、被控訴人組合の委員長からは「スライド制については良い面と悪い面があって非常に迷っており、今後勉強したい。」との発言もなされていた。

13  しかし、その後も、補助参加人両名と被控訴人組合との間において、スライド制導入についての前向きな協議は進展せず、昭和五五年一一月ころには、会社側から資料を提出するなどしてスライド制についての勉強会が持たれたが、被控訴人組合側においては右制度に対する消極的姿勢に変化はなく、同年冬期の一時金支給についても、同年夏期の一時金支給と同様に、全自交広タク支部に対しては、前記前提条件の受諾に基づく上積み支給がなされたが、被控訴人組合に対しては、昨年並の金額が暫定支給されるに止まった。

なお、被控訴人組合は、昭和五五年一一月一一日開催の第四回定期大会において、補助参加人両名からのスライド制導入の提案について、他産業並みのバランスのとれた賃金体系に移行する意図であることを認めつつも、原資の配分が不明確な点や事実上の賃下げになるとの問題点を指摘して、徹底した討議が必要であるとの方針を示しており、この時点でも、必ずしもスライド制導入に絶対反対との態度を明確にしていたわけではなかった。(証拠略)

14  かくして、昭和五六年の春闘を迎え、補助参加人両名は、同年四月中旬ころ次期運賃改定時期や改定率についての情報が得られたため、スライド制を導入した具体的数字を示した新しい賃金体系を作成し、同年五月一二日の団体交渉において、同年三月二一日に遡って実施することを、全自交広タク支部と被控訴人組合の両組合に対し等しく提案した。

右提案は、次期運賃改定時から一乗務当たりの足切り額を二五〇〇円引き上げる方法でスライド制を実施するというもので、一時金は前年の年間支給額に二万五〇〇〇円上積み支給し、定期昇給は四月分賃金から年額六〇〇円を一〇〇〇円に増額するほか、諸手当の改定、団体生命保険への加入等を内容とするものであった。(なお、補助参加人両名におけるタクシー乗務員の勤務は、月間一三乗務(通常、午前八時から翌朝午前二時までを一乗務とする。)を標準としており、歩合給算出のための歩合率を四〇パーセントとしていたので、スライド制導入による前記二五〇〇円の足切り額の引き上げを一乗務当たりの平均運収二万七〇〇〇円に単純に当てはめると、歩合給が月額一万三〇〇〇円程引き下げられる計算となる。)

15  補助参加人両名からの右提案に対し、全自交広タク支部はこれを全面受諾したが、被控訴人組合は、同年六月三〇日、スライド制を導入した右賃金体系は月額一万三〇〇〇円の賃下げになるとして拒否する態度を明確にし、結局、同年度の一時金については、前年度に暫定支給された年間総額四九万五〇〇〇円に夏期一時金の二万五〇〇〇円を上積みした額を暫定支給することで補助参加人両名との間で合意が成立した。

右の結果、補助参加人両名においては、昭和五六年三月二一日以降、全自交広タク支部に所属する従業員と、被控訴人組合に所属する従業員とでは、異なった賃金体系が適用されることとなり、実際には、同年一一月六日にタクシー運賃の改定が実施されることにより、同年一〇月二一日に遡り、全自交広タク支部に所属する従業員には前記スライド制の導入された賃金体系が、被控訴人組合に所属する従業員には従来どおりの足切り額の賃金体系が、それぞれ適用されるに至った。

なお、補助参加人両名は、昭和五六年の冬期一時金については、スライド制の導入が賃下げになるものではないとの理解を得るため、全自交広タク支部に所属の従業員に対して六万九〇〇〇円の上積み支給をすることにし、右支給を行った。

16  なお、右スライド制導入の経過で、全自交広タク支部の組合員の中にも、あくまで歩合給中心の従来のノースライド賃金体系を支持する者が少なからず存在し、昭和五五年五月から昭和五七年三月まで、全自交広タク支部を脱退して被控訴人組合に加入した組合員は一三名にのぼっている。(証拠略)以上の事実が認められる。

ところで、同一企業内に複数組合が併存する場合、各組合はそれぞれ独立して活動を行う自由を有しているのであるから、組合が、自組合員の労働条件に関する事項について、使用者との間で交渉を行い、協約を締結するに当たっては、専ら自らの自主的な判断によって、使用者との交渉のやり方や協定の内容を決定すべきものであり、併存組合の一方が使用者側からの提案を受諾し協約を締結したのに対し、他方の組合が右提案の受諾を拒否したため使用者との間で協約を締結することができず、その結果、両組合員間の労働条件に差異を生じ、事実上他方組合の組合員が不利益に扱われる結果になったとしても、それは、正に当該労働組合の自由な意思に基づく選択の結果にほかならず、したがって、使用者が両組合に対して同一の労働条件を提示しているような場合には、一般的に不当労働行為の問題は生じないものといわなければならない。

しかしながら、右の議論は、あくまでも当該団体交渉の結果について、組合がその自由な意思決定に基づいて選択したものとみられるべき状況のあることが前提であることはいうまでもなく、使用者において各組合との対応に関して平等取扱い、中立義務に反し、提示した労働条件について労働組合の一方とのみと協議して、他方の組合には何らの実質的協議を行わず、他方組合との団体交渉が既成事実を維持するため形式的に行われているものと認められる場合(但し、使用者は併存する組合との対応においては、各組合の組織力、交渉力に応じた合理的、合目的的対応をすることが許されるものであって、使用者が多数派組合との間で合意に達した一定の労働条件を少数派組合とも妥結しようとして、右労働条件をもって譲歩の限度として強い態度をとることは必ずしも非難されるべきでなく、そうでなければ、使用者は少数派組合の要求に譲歩しない限り不当労働行為意思が推定されるという不当な結果となる。)、あるいは、右提示された労働条件の内容が抽象的であったり、合理性に欠け、また、使用者において右提示内容の具体的説明をせずに、その受諾に固執するなど、他方組合において右労働条件の受諾を拒否するにつきやむをえない事情があると認められる場合など、団体交渉の経過やその内容、さらには背景となる労使間の諸事情を全体としてみた場合に、使用者側の他方組合に対してとった行為が当該組合の組織の動揺や弱体化を意図し、同組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図が決定的動機となって行われたものと認められる特段の事情がある場合は不当労働行為が成立するものと解される(最高裁判所第三小法廷昭和五九年五月二九日判決、民集三八巻七号八〇二頁、同昭和六〇年四月二三日判決、民集三九巻三号七三〇頁参照)。

これを本件の一時金支給についてみてみるに、前記認定事実によれば、補助参加人両名は、昭和五五年度と昭和五六年度の夏期及び冬期の一時金の上積み支給につき、同一の前提条件(昭和五五年度は、地域の情勢に合わせて次期運賃改定時にスライド制を導入すべく協議すること、昭和五六年度は、スライド制を導入した新賃金体系に移行すること)を提示し、全自交広タク支部はこれを受諾し、被控訴人組合はこれを拒否したため、その結果、右各年度の一時金の支給につき両組合に差異が生じたものであって、前記特段の事情が認めらない限り、右は両組合の自由意思に基づく選択の結果であって、不当労働行為を成立させるものではない。

そこで、本件について、不当労働行為を成立させるについての前記特段の事情が認められるかどうかについて、前記認定事実に基づき、以下、検討を進める。

まず、昭和五五年度の一時金の上積み支給についてみるに、その前提条件として補助参加人両名が提示したスライド制の導入は、タクシー業界において従前の歩合給中心の賃金体系から安定した労働条件の整備を図るための賃金体系への移行を意図したもので、月別賃金の低下などタクシー労働者にとって否定的評価の生じる一面があることは理解できるものの、要は、どのような賃金体系を採用するかという政策的判断にかかる事柄であって、右制度の導入自体に合理性がないものとはいえない。

問題となるのは、スライド制の導入前に、右制度の導入につき協議すること(単に制度の是非を協議するのではなく、前向きに制度を導入する方向で協議すること)を一時金の上積み支給の前提条件としたことであり、この点は、補助参加人両名において、いわば金銭の支給でもって労働者側に新賃金体系への移行を誘導したものとの批判を免れない。

しかしながら、前記認定のとおり、スライド制の導入は、運賃改定時に足切り額を上げて会社への原資を確保し、これをもって一時金や福利厚生面の充実を図ろうとするもので、補助参加人両名にとっては、長期的展望に立っての制度導入であり、そのために、いわば先行投資的意味合いから、一時金の上積み支給を取引材料にして右制度の導入を図ろうとしたことは、会社経営上の政策として許される限度を越えたものと評価することはできず、これをもって不当、不合理なものとまで断じるには至らないというべきである。

被控訴人組合は、スライド制の導入につき、補助参加人両名は全自交広タク支部とは事前に合意を成立させ、一方、被控訴人組合には何らの事前協議なしに右制度導入に応じないことを予測して前記前提条件を提示した旨主張するが、前記認定のとおり、補助参加人両名と全自交広タク支部との間においては地区労使懇談会などを通じて右制度導入についての協議を進め、昭和五五年四月一四日の団体交渉前に右制度の導入を図ることでほぼ意見の一致をみていたものであるが(この点、当審における〈人証略〉の各証言中、右認定に反する部分は、前掲〈証拠・人証略〉などに照らし措信し難い。)、補助参加人両名において圧倒的多数派組合である全自交広タク支部との間で重要な労働条件に関する右制度導入につき団体交渉以外の場で事前の協議を進めることは必ずしも非難されるものではなく、一方、被控訴人組合のスライド制導入についての対応は、上部団体の自交総連は反対の態度を明確にし、被控訴人組合も消極的態度をとってはきていたものの必ずしも絶対反対の立場を明確にしていたものではなく(昭和五五年六月一八日の団体交渉の席上でも、被控訴人組合委員長はスライド制には良い面、悪い面があり、非常に迷っている旨の発言をしている。)、しかも、補助参加人両名の被控訴人組合に対する前記一時金上積み支給についての前提条件の提示は、早急に結論のみの回答を迫るというものではなく、昨年並の一時金の暫定支給に応じた後もさらに協議を継続する姿勢を示していたものであり(被控訴人組合も、所属の組合員に対し、右暫定支給後もスライド制導入問題についての補助参加人両名との合意が成立すれば、全自交広タク支部と同様の上積み支給がなされる余地がある旨説明している。)、これらの事実を総合すると、補助参加人両名において、前記前提条件について全自交広タク支部とのみ協議し、他方の組合である被控訴人組合とは何らの実質協議を行わず、同組合との団体交渉が既成事実を維持するために形式的に行われたものとまでは到底認め難いといわなければならない。

さらに、被控訴人組合は、前記一時金支給の前提条件となった「スライド制を導入すべく協議すること」は、抽象的表現であるうえ、何らの事情説明もなく、その受諾を拒否するにつきやむをえない事情があった旨主張するが、前記認定のとおり、昭和五五年春闘の時点では次期運賃改定時や改定率についての具体的情報が得られていなかったことから、補助参加人両名においては右のような抽象的表現に止めざるをえなかったものであり、スライド制については、タクシー業界にあって、昭和三九年ころから東京の大手タクシー会社において導入が図られるなど、その賛否は別として右制度の趣旨や内容は被控訴人組合においても右時点で十分理解していたことが認められ(被控訴人組合も補助参加人両名との団体交渉を通じてスライド制の趣旨や内容の説明は何ら求めていない。)、さらには、前記暫定支給の決定後、昭和五五年一一月ころには資料に基づくスライド制の勉強会を持つなどしており、これらの事実を総合すると補助参加人両名が被控訴人組合に提示した前記前提条件が、抽象的で合理性に欠け、また、提示内容の具体的説明をせずに受諾に固執するなど、被控訴人において受諾を拒否するにつきやむをえない事情があったとまでは認め難いものである。

次に、昭和五六年度の一時金上積み支給についてみるに、同年の春闘の時点では、次期運賃改定時期や改定率についての情報が得られたことにより、補助参加人両名は、スライド制を導入した具体的数字を示した新賃金体系を全自交広タク支部と被控訴人組合の両組合に等しく提示しており、全自交広タク支部はこれを受諾し、被控訴人組合はこれを拒否したことにより、同年三月二一日に遡って右両組合の従業員に対して二つの異なった賃金体系の適用が行われることになったものであり、これは正に右両組合の労働条件に関する事項についての自由な意思決定に基づく選択の結果といわなければならない。

確かに、同年度においても、スライド制が実施されたのは同年一一月六日から同年一〇月二一日に遡ってであり、それまでの右両組合の従業員について労働条件に変わりはなかったものである(この点は、当事者間に争いがない。)が、補助参加人両名にとっては、スライド制の実施は単年度で終わる事柄ではなく、長期に及ぶ新賃金体系の確立を図ろうとするものであることに鑑みると、右制度の実施前から、右制度の導入を前提として夏期、冬期の一時金の上積みを盛り込んだ内容の賃金体系の提示をすることは、必ずしも不当、不合理なものということはできない(換言すれば、被控訴人組合としては、同年度の春闘の時点においてスライド制の導入を前提とした一時金の上積みを伴う新賃金体系を選択するか、同年度中に実施予定の運賃改定時に足切り額のアップのない従来型の賃金体系を選択するか、具体的数字の明らかになった両賃金体系の選択の自由が与えられていたもので、後者を選択した結果、同年度の一時金につき全自交広タク支部との間に差が生じたとしても、それは労働組合としての自主的選択の結果であるという外ない。)。

以上の次第からして、本件一時金の上積み支給については、不当労働行為を成立させる前記特段の事情を認めるに足りず、むしろ、補助参加人両名においては、スライド制を取り入れた新賃金体系への移行を図る意図のもとに右制度導入と結びつけて労働組合側に一時金上積み支給の提示をしたものと理解され、右の提示や一時金の上積み支給をもって、被控訴人組合に対する団結権の否認ないし嫌悪の意図が決定的動機となっていたと認めることはできない。

三  組合費等の二重控除について

次に、被控訴人ら主張の本件命令の違法事由のうち、組合費等の二重控除について検討する。

補助参加人ときわタクシーが、訴外小関に対し昭和五七年四月から同年一一月までの間、被控訴人原に対し昭和五七年四月から昭和五八年一月までの間、被控訴人幸田に対し昭和五七年四月から昭和六一年五月までの間、それぞれ、その給与から被控訴人組合の組合費等と合わせて全自交広タク支部の組合費等を二重に控除したことは、いずれも、右補助参加人において自認しているところであって、当事者間に争いがない。

被控訴人らは、右三名の者に対する本件組合費等の二重控除は、労働者の自由な組合脱退と組合加入の権利を奪い、被控訴人組合の弱体化を計るもので不当労働行為に該当する旨主張するので、以下、検討する。

右争いのない事実に加えて、(証拠・人証略)の結果、当審における(人証略)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被控訴人組合は、昭和五二年一二月、全自交広タク支部を一斉脱退した四三名の補助参加人両名の従業員によって結成された労働組合であるが、右脱退者のうち三三名については、全自交広タク支部がこれらの者の労働金庫からの借入金の保証をしていた関係などから、同支部はその後も補助参加人両名に対して組合費等の控除申請を出し、補助参加人両名はこれに従って、右の者らについて全自交広タク支部の組合費等を控除してこれを保管するという対応に出た。このため、全自交広タク支部と被控訴人組合との間において紛争が生じた。

2  そこで、補助参加人両名の仲介により右両組合間で折衝が行われ、昭和五三年七月三日、補助参加人両名が保管している右組合費等を被控訴人組合と全自交広タク支部とで折半し、今後の組合費等の控除については、賃金計算期間の初日(毎月、前月の二一日)時点における従業員の所属組合によって処理すること、全自交広タク支部からの脱退者の労働金庫からの借入金の保証問題については、被控訴人組合が右保証の肩代わりをすることで解決を図ることで合意が成立し、その後、昭和五四年四月から昭和五六年六月まで、全自交広タク支部を脱退して被控訴人組合に加入した一五名の者については、組合費等の二重控除の問題は生じないできていた。

3  ところが、昭和五七年三月二〇日、訴外小関と被控訴人原、同幸田の三名が全自交広タク支部を脱退して被控訴人組合に加入し、同人らの所属する補助参加人ときわタクシーに対し電話でその旨の通告がなされるとともに、被控訴人組合から同補助参加人に対し、同年四月分から右三名の給与から被控訴人組合の組合費等の控除申請が出され、他方、全自交広タク支部からも右三名につき同支部からの脱退は認められないとして同年四月以降も引き続き右三名の給与から同支部の組合費等の控除申請が出されたため、同補助参加人としては、右両組合からの申請に従って右三名の者につき両組合の組合費等を控除し、ここに本件組合費等の二重控除問題が発生した。

4  補助参加人ときわタクシーの側では、本件組合費等の二重控除問題の発生後、被控訴人組合と全自交広タク支部のいずれか一方のみの言い分に従うことは、使用者として労働組合に対する支配介入になるとの立場から、右両組合間で話し合いによる解決が図られるよう申し入れたが、全自交広タク支部からの回答は、右三名のうち、訴外小関については同人の組合脱退意思の確認がとれず、被控訴人原及び同幸田については従来からの慣行である組合移籍に伴う労働金庫からの借入金の一括返済がなされていないとの理由で、同人らについて同支部からの脱退を認めるわけにはいかないというものであった。

5  訴外小関は、昭和五七年三月二四日、全自交広タク支部に対し脱退届を提出したものの、同支部の委員長に対し同支部からの脱退につき非常に迷っている旨の発言をしていた。訴外小関は、同年一〇月二四日に至り、同支部に対し、ようやく決意も固まったので同年一二月以降は被控訴人組合への組合費等の納入をする旨の上申書を提出した。このため、全自交広タク支部は、補助参加人ときわタクシーに対し、訴外小関の昭和五七年一二月以降の組合費等の控除申請を止め、その結果、同人についての組合費等の二重控除問題は解消した。

また、被控訴人原及び同幸田については、全自交広タク支部が保証人となっている労働金庫からの借入金の一括返済がなされなかったため、その後も同支部からの組合費等の控除申請が続けられた。しかし、被控訴人原については昭和五八年一月、同幸田については昭和六一年五月に労働金庫に対する債務が完済されたため、全自交広タク支部は、同人らに対する右債務完済の各翌月からの組合費等の控除申請を止め、その結果、同人らについても組合費等の二重控除問題は解消した。

6  なお、全自交広タク支部と被控訴人組合との間では、昭和六二年二月七日、両組合間の組合員の移籍については脱退組合員の真意の確認と債権債務の一括返済が従来からの合意事項となっていたことを改めて確認するとともに、今後は右事項の処理が完了した時点で両組合が補助参加人両名に対し文書で通告することにより、組合員の移籍に伴う組合費等の二重控除問題等の発生を防止する内容の覚書(証拠略)が交わされた。

以上の事実が認められる。

右認定事実によれば、本件組合費等の二重控除については、被控訴人組合と全自交広タク支部との間において、訴外小関ら三名の組合移籍に伴い、その真意の確認や労働金庫からの借入金の一括返済を巡って紛議が生じ、右両組合からそれぞれ組合費等の控除申請がなされるに至ったため、補助参加人両名の側では、支配介入になることを懸念して、やむなく本件組合費等の二重控除の処置をとっていたものと認められ、これをもって、被控訴人組合に対する組織の動揺や弱体化を意図した不当労働行為意思に基づくものと認めることはできない。

四  背景事情について

なお、被控訴人らは、本件一時金の上積み支給及び組合費等の二重控除が補助参加人両名の被控訴人組合に対する不当労働行為であるとして、その背景事情に、組合事務所の使用や時差勤務、無線車乗務などについての差別的な不利益扱いがある旨主張するので、以下、判断を加える。

原審における被控訴人安村定の本人尋問の結果、当審における(人証略)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、補助参加人両名は、被控訴人組合には補助参加人ときわタクシー社屋内の休憩室の一角を組合事務所として使用させているだけで、補助参加人広島タクシー社屋内での同事務所の設置を認めず、また、全自交広タク支部には補助参加人広島タクシー社屋内に掲示板の設置を認めながら、被控訴人組合に対してはこれを認めていないが、右両組合の組合員数やその所属数(昭和五七年七月当時において、被控訴人組合の組合員は補助参加人広島タクシーに一〇名、同ときわタクシーに四六名で、一方、全自交広タク支部の組合員は同広島タクシーに六八五名、同ときわタクシーに九六名であった。)などに照らして、ことさらに被控訴人組合を差別的に取り扱ったものとはいえず(全自交広タク支部には補助参加人ときわタクシー社屋内には組合事務所はなく、被控訴人組合に掲示板の設置を認めない代償として、同組合の組合員に対する連絡等を補助参加人両名が手伝っていた。)、また、時差勤務、無線車乗務については、いずれも補助参加人両名と右両組合との間の協定締結の有無などにより異なった取り扱いがなされていたもので(無線車乗務については、昭和六三年からは、被控訴人組合との争議協定の締結により、右両組合間の異なった取り扱いは解消された。)、その他、本件全証拠によるも、被控訴人らの主張する本件一時金の上積み支給等が不当労働行為であることを推認させるに足りる背景事情は認め難い。

五  結論

以上の次第で、本件一時金の上積み支給及び組合費等の二重控除については、いずれも不当労働行為に該当するものとは認め難く、これと同旨の本件命令は正当であり、これらについて不当労働行為の成立を認めて本件命令の一部を取り消した原判決は失当である。

よって、原判決はこれを取り消したうえ、被控訴人らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九六条、八九条、九三条、九四条を適用して、主文のとおり判決する

(裁判長裁判官 山田忠治 裁判官 佐藤武彦 裁判官 難波孝一)

別紙一 当事者目録

控訴人 広島県地方労働委員会

右代表者会長 山根志賀彦

右指定代理人 秋山光明

同 山口高明

同 皿谷邦彦

同 沖山裕宣

同 久田克好

同 一橋道明

控訴人補助参加人 株式会社広島タクシー

右代表者代表取締役 小野正博

控訴人補助参加人 株式会社ときわタクシー

右代表者代表取締役 小野正博

右補助参加人両名訴訟代理人弁護士 神田昭二

同 真田文人

被控訴人 岡田長英

外三九名

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